BRUCE SPRINGSTEEN (ブルース・スプリングスティーン)


私が彼の存在を知ったのは1975年のヒット‘Born To Run’によってであった。それまでは雑誌なんかで
は紹介されたりしていて名前だけは知ってはいたのだが、どれも『第二のボブ・ディラン』みたいな紹介
がされていた為、聴く気にはなれなかった。偏見であったが、当時はあまりボブ・ディランは好きではな
かったのである。1984年の‘Born In The U.S.A.’の成功によって、彼はまさしくアメリカン・ヒーローの
一人となってしまい、それによってサクセスと共に深い苦悩をも手にすることになった彼のそれ以降のア
ルバムは殆どと言って良いくらい聴いていない。時がくれば聴きたいとは思うのだが、今現在も現役で
活動している人の中でこれほどまでに私の中では70年代で完結してしまったアーティストも珍しいと思う。
原因は良く判らないのだが、彼の70年代のアルバムを紹介しながら、自分でもそこら辺を探ってみたい
と思う。



Greetings From
Asbury Park,N.J.

(1973)
後にマンフレッド・マンズ・アース・バンドがカバーして全米No.1ヒット(77年)とした‘Blinded By The Light
(邦題:光で目もくらみ)を収録したデビュー・アルバム。まるで言葉の洪水のような曲ばっかりで、そこか
ら伝わってくるエネルギーにはまったく圧倒されっぱなしだ。ここでの‘Boss’は若さに溢れて実に小気味
良い演奏・歌を繰り出してくれており、聴くものを一編で虜にするようなナンバー‘For You’(グレッグ・キー
ンもカバーしてた)や‘Growin' Up’、後にずっとステージでのハイライトの一つとなった‘Spirit In The
Night’などが好ナンバーと言える。ボブ・ディランを思わせるナンバー‘It's Hard To Be The Saint In The
City’での歌い方を聴いていると、何故か思わず‘Thin Lizzy’の今は亡きPhil Lynottの歌い方を連想して
しまった。
邦題は『アズベリー・パークからの挨拶』。
The Wild,
The Innocent
&
The E Street
Shuffle

(1973)
冒頭の‘The E Street Shuffle’がビートの利いたファンキーなナンバーでおやっと思わせるが、デビュー・
アルバム同様殆どと言っても良いくらい売れなかったらしく、地味めな曲が揃っている感はやっぱり否め
ない。それでも‘Incident On 57th Street’での何かを訴えるような歌唱には思わず耳を傾けてしまうし、
間髪入れずに続くナンバー‘Rosalita’にはその後の成功を予感させる勢いがあり、聴くものを圧倒する迫
力がある。クラレンス・クレモンスのサックスもここでのハイライトと言えるナンバーだ。ラスト・ナンバーの
New York City Serenade’は胸に熱いものが込み上げてくるような文句無しの名曲。
当時日本ではこちらがデビュー・アルバムだった。
邦題は『青春の叫び』。
Born To Run

(1975)
レコード会社とのトラブルによって20ヶ月を費やした彼の初期の代表作。『僕はロックンロールの未来を見
た。その名はブルース・スプリングスティーン』のキャッチ・コピーによって大々的に宣伝され、アルバム・
チャート3位にまで駆け上った。売れるアルバムはどこかジャケットが違うものだが、これもまたそう感じる
一枚だ。言葉を叩きつけるように歌い聴く者を圧倒する‘Thunder Road’‘BackStreet’、疾走感漂うロック
ン・ロールの‘Night’‘Born To Run’、彼の内面を全部吐露して見せるような9分以上にも及ぶ力作の
Jungleland’など70年代のまさに最高傑作だと思う。これでもか、これでもかとブルースは言葉という
楽器を鳴らしつづける。演奏陣も固定されてはいないのだが、それでもバンドとしての形を保ちタイトなロ
ックン・ロールを演出している。
邦題は『明日なき暴走』。
Darkness On
The Edge
Of Town

(1978)
マネージングに関する裁判等によっての3年振りのアルバムとなった。しかし冒頭の‘Badlands’によって
心配は老婆心であったことが証明される。相変わらずのブルース流のロックン・ロール節が嬉しいナンバ
ーで胸踊る。夜(闇)の街にスポットを当てながらも決して暗いイメージは無く、バンドとしてのアンサンブ
ルが一番優れたアルバムだと思う。‘Racing In The Street’‘The Promised Land’‘Prove It All Night
などのナンバーでの良い意味、力の抜けた自然体の姿をさらけ出しているような歌い方も素敵だし、例に
よって力強い咆哮を交えたナンバー‘Darkness On The Edge Of Town’など、どれもが周りに‘Boss’と
言わしめるような風格が出てきたナンバーが揃ったアルバムだ。
邦題は『闇に吠える街』。
The River

(1980)
初の2枚組アルバムで、ステージ上でのエナジーをそのままレコード(CD)という形で表現した、ダイレク
トなサウンドなロックン・ロール集とでも言えば良いのだろうか。3分ちょっとの小気味良いロックン・ロール
が中心の構成となっていて、なんのギミックもない‘Jacson Cage’‘Ywo Hearts’‘Crush On You’‘You
Can Look’などのストレートなナンバーが彼のロックン・ロールに飢えた証として象徴的。そして‘The
River’での切ないメロディーが胸に染み入り、‘Wreck On The Highway’で彼のがむしゃらに突き進んだ
70年代は幕を閉じ、それと共に慟哭の80年代の扉が開いたのだった。
動と静のナンバーを巧みに揃え、60年代の香りを漂わせた好アルバムだ。ここからは
Hungry Heart’が全米5位のシングル・ヒットとなる。