HUMBLE PIE (ハンブル・パイ)

ハンブル・パイは1968年にスモール・フェイセズのリーダーであったスティーヴ・マリオットと
ハードのピーター・フランプトンを中心に結成された。しかし、1971年発表のライヴ・アルバ
ム‘Peformance:Rockin’The Filmore’を最後にピーター・フランプトンは音楽的志向の違い
からバンドを脱退。代りにデイヴ・‘クレム’・クレムソンが迎えられてスティーヴ・マリオットの
目指すブラック・ミュージック&ロックがここに完成した。『小さな巨人』とも言われたマリオット
のパフォーマンスはもはや伝説ともなっており、1973年の来日コンサートを神話とさえする
評論家も少なくない。スティーヴ・マリオット〜1991年火事によってわずか44年の生涯を閉
じる。ブリティッシュ・ロック界の生んだ不世出な天才シンガーと共に、特に好きなデイヴ・クレ
ムソン加入後のアルバムにスポットを当てて紹介しよう。



SMOKIN’
(1972)
誰もが見とめる名盤がこれ。ロック名盤などという本には必ずこのアルバムが載
っている。デイヴ・クレムソンの加入によっていよいよハードさを増して、ご機嫌な
ブギー調にアレンジされた‘C'MON EVERYBODY’も痛快なら、アルバム冒頭を
飾るファンキーなハードなナンバー‘HOT'N' NASTY’や‘30 DAYS IN THE HOLE
などクレムソンのギター、マリオットのシャウトするヴォーカル共に素晴らしいナン
バーが目白押しだ。クレムソンのブルース・フィーリング溢れるギターとマリオット
の粘っこいヴォーカルが見事に絡み合う9分近い大作の‘I WONDER’で聴けるプ
レイはレッド・ツェッペリンのファースト・アルバムでのジミー・ペイジとロバート・プ
ラントの2人を思わせる。全米チャート6位となる。
EAT IT
(1973)
レコードではD面のみライヴ録音盤であって、益々ブラック・ミュージックへの傾倒
が強く表れ始めた一枚である。私がリアル・タイムでハンブル・パイと接したのもこ
のアルバムからであったが、当時高校生の私にはこの良さが判るには早すぎた。
黒人3人組のバック・コーラス‘ブラックベリーズ’がどの曲においてもフィーチャー
されており、マリオットのソウルフルな歌唱法とも上手くマッチして、全体的には統
一感のあるサウンドを打ち出すことに成功したと言える。ハードな‘GOOD BOOZE
AND BAD WOMEN’‘DRUGSTORE COWBOY’やバラードの‘IS IT FOR LOVE
THAT'S HOW STRONG MY LOVE IS’、そして最高のライヴ・パフォーマンスを聴
かせてくれる‘UP OUR SLEEVE’ストーンズの‘HONKY TONK WOMEN’などどれ
もが70’s Rockの最高峰の出来となっている。
THUNDERBOX
(1974)
ジャケットが話題になったアルバムで、ドアの鍵穴を覗くと女性の裸体が見えると
いう嗜好であった。12曲中オリジナルは5曲しかなく、カヴァー曲中心の選曲とな
ったところが異色といえば異色のアルバムだ。ハードな曲とブラック・ミュージック
に傾倒した曲とがはっきりと識別された構成はイマイチ、アルバム全体としてのイ
ンパクトに欠ける。マリオットの、今で言えばラップ風のヴォーカルが特徴的であ
るが、クレムソンもタイトル曲‘THUNDERBOX’や‘EVERY SINGLE DAY’でコンポ
ーザーに名を連ねてハードなギターを演奏してくれている。評価的には決して高い
アルバムとは言えない。
STREET RATS
(1975)
このアルバム発売当時、音楽雑誌に載っていたキャッチ・コピーは『解散説の真
只中に提示された、これがパイの最終結論!』というものであった。分かったよう
な分からないような内容であるが、このアルバムは世間的には評価は低かったと
記憶している。一つの売りとしては‘WE CAN WORK IT OUT’‘RAIN’‘DRIVE MY
CAR’と3曲のビートルズ・カヴァー・ソングがあることだ。何れも大胆なアレンジが
施されていて、マリオットの枯れたVo.が魅力的であると共にクレムソンのスライ
ド・ギターあたりも味わい深いものがある。発売当時は全然好きになれなかった
アルバムだったが、今聴き返すと不思議と良いのである。全体的なイメージとして
はハードな曲調のものが多く、‘SMOKIN'’の頃のサウンドに近いかも知れない。
IN CONCERT
(1995)
これは73年のアメリカン・ツアーにおけるライヴであり、最もパイがノッテいた時
期で今や神話化さえされている日本公演も同年にあたり、プログラムも一緒なの
でとても興味深いアルバムと言える。パイのライヴ・アルバムと言えば当然ピータ
ー・フランプトン在籍時の‘Performance:Rockin' The Fillmore’が有名だが、私は
こちらの方が好きだ。なんと言ってもクレムソンのギターが余りにも素晴らしすぎ
る。彼のガッツ溢れるハード・リフなギターは、このバンドに確実に新たな息吹を
与えたと言っても過言ではない。マリオットのVo.もバックのブラックべリーズのコ
ーラスもどの曲においても最高のパフォーマンスがここにある。お得意のレイ・チ
ャールズのカヴァー‘I BELIEVE TO MY SOUL’でのマリオットの魂の奥底から絞
り出すようなソウルフルなシャウトを聴くと、『この人ホントに白人?』と思わせるよ
うな歌い方をしている。‘30 DAYS IN THE HOLE’や‘HOT N' NASTY’などどの曲
もがライヴ・バンドとしての彼らの非凡な実力を余すところ無く伝えてくれ、スタジ
オ・アルバムではあまり聴かれないマリオットのギター・ワーク、聴衆への熱いアジ
テーション、どれもがエネルギッシュで汗がほとばしるといった表現がぴったりする
ライヴ・アルバムなのだ!

オマケ
MARRIOTT
(1976)
ハンブル・パイ解散後初のソロ・アルバムで、アルバム発売当時はA面をブリティッ
シュ・サイド、B面をアメリカン・サイドとした構成が話題を呼んだ。ここでもカヴァー曲
がふんだんに歌われていて、黒くて熱い語り口調のヴァーカルは健在だ。アメリカン
・サイドになるとがらっと趣向が変わり、良い意味で力の抜けたマリオット風レイド・バ
ック・サウンドが楽しめ、新しい一面を見せてくれる。味わい深いアルバムではある
が評価的にはイマイチであったようで、これ以後マリオットは不遇の人生を送る事と
なるのである。


STEVE MARRIOTT